経済地理学とは
経済地理学とはどのような分野なのでしょうか?
経済地理学は、なかなかわかりづらい分野なんですよ(笑)簡単に説明すると、日本地図や世界地図を広げたときに、地理的な特徴がありますね。例えば、東京やニューヨークなどの大都市がありますが、なぜそのような大都市ができるのかといったことや、シリコンバレーのような絶え間なくイノベーションが発生する場所もあるのだけど、なぜそういうことが可能なのか、といった場所の特質、地域的な差異を経済メカニズムの視点から明らかにする学問分野であるといえます。その他にも、日本国内、北海道内の個々の地域が直面している地域的な経済問題についても、なぜそのような問題が生じるのか、その問題の解決の方法としてどのようなことが考えられるのか、といったことも取り上げています。
例を出すと、少し前にショッピングモールをはじめとした、大型商業施設が乱立することによって、地方商店街の存続が危ぶまれるという問題が話題になりました。大型商業施設は、現在札幌市内全域に立地していますが、1980年代までは、市内中心部にしかありませんでした。
ところが、「規制緩和」が進められ、大型店が国道などの幹線道路沿いに乱立することになり、さらに札幌市内にとどまらず地方のまちにも大型店の出店ラッシュが相次ぎました。その結果、商店街の衰退に加え、まちの景観がどこも画一的になってしまっています。国道12号線を札幌から旭川まで行くには、途中いくつかまちを通過しますが、試しにそれぞれのまちの入り口を写真で撮ると、どれも同じような写真になります。景色が一緒なのです。まちの個性の喪失と言ってもよいかもしれません。授業で学生に写真を何枚か見せて、どこの街だと思う?と訊くと中々当てられないんですよ(笑)
『はるゆたか』は『ますや』に救われた?

先生はどのような研究をしているのでしょうか?
十勝に『ますや』というパン屋があります。十勝の人なら知らない人はいないパン屋さんです。1980年代には、店舗面積当たりのの売上高が、全国で一位になったこともあると言われています。面白いのは、北海道内でも他のパン屋さんに先がけて十勝産小麦、北海道産小麦でパン作りを進めてきたことです。『ハルユタカ』というパン用小麦を聞いたことがありますか?この小麦はデリケートで作付が難しい小麦として有名で、『ますや』がパン用小麦にこだわっていなければ、とうの昔に消滅していただろうと言われています。
国産の小麦は、パンなどには使われず、うどんやそばなどの「日本めん」として使用されるか、外国産小麦の品質調整用使われてきた歴史があります。圧倒的大部分が中力粉になる中間質小麦で、パンなどに用いる強力粉となる硬質小麦は、まったくと言って良いほど作付されていませんでした。しかし、先ほどお話したように、『ますや』は1980年代から、十勝産小麦、北海道産小麦にこだわったパン作りを進めてきました。なぜでしょうか。
十勝は、国内最大の小麦の生産地です。あまり知られていませんが。。。帯広市内にも小麦畑が広がっていて、畑作農家さんは当然小麦を作付しています。ある日、パンを買いに来た農家さんが、当時の社長さんに「このパンは私たちがつくった小麦を使っているんだよね?」とごく普通に聞いたそうです。しかし、社長さんはこの問いかけに対してとてもショックを受けたのです。なぜだか分かりますか?理由は2つです。1つは、農家さんは小麦を作付しているにもかかわらず、その小麦がパン用には適さないことを知らなかった、言い変えれば、小麦が最終的にどのように消費されているかを知らなかったこと、2つめは、十勝で生産された小麦はほぼ全量が域外に移出されて地元に残らないのですが、そういう事実も知らなかったということです。
この問いかけをキッカケに『ますや』は地元の十勝産の小麦でパンをつくりたいと考えたのです。そこでまずは、道内の小麦を使うことになり、目をつけたのが江別の『ハルユタカ』でした。この小麦はパンにすると甘みが強くて美味しいのですが、非常にデリケートなため見放されかけていました。しかし『ますや』がハルユタカを地道に使い続けた結果、生き延びたと言われているのです。こういった地域に関する経済や産業について調査して、現状分析や過去からの流れを読み解いて未来につなげていくことが、今現在私が行っている研究です。
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